「サウジ・ビジョン2030」とは2016年4月にサウジアラビア王国にて発表された経済改革構想のことです。
国際石油市場の構造変化等の要因を受け、石油依存型経済からの脱却と、それに伴う経済活動の多様化が目指されています。
本ビジョンの特徴は、具体的な目標がかなり細かく設定されている点にあります。
ビジョン2030では、これまで多くの成果が生まれていますが、そのほとんどがトップダウンで進められた分野です。
一方、海外からの直接投資や雇用創出など、民間部門の働きが求められる分野では大きな成果が見られていないのが現状です。
ビジョン2030の目標達成に向け、今後は民間部門の活性化と働きがより求められます。
イスラム教国としての立ち位置をより強固にする、国民の生活水準を向上させるといったビジョンの根本は、サウジアラビア国民にも肯定的に受け止められています。
明確な目標設定とトップダウン政策の進めやすさ、国民の歓迎風土によってサウジ・ビジョン2030は一定の成果を上げ続けているとみられます。
2015年12月にコンサルタント会社マッキンゼーが発表した報告書「サウジの脱石油:投資と生産性の転換」がビジョン2030の下敷きと言われています。
また、ビジョン2030発表の背景には
- 人口増加等サウジ社会の変容(歳出要因)
- サウド王室内の危機感の高まり(政治要因)
- 国際石油市場の構造変化による原油価格政策の見直し(歳入要因)
の三要因があると考えられています。
財政改革や公的投資基金の規模拡大など、トップダウンで進められた分野については一定の成果が表れた一方、
海外からの直接投資や雇用創出など、民間部門の働きが期待された分野では成果が挙がっていないのが現状です。
そのため、民間部門の成長が2020年以降のカギとなります。
- 海外からの直接投資額:2015年SR300億 →(減少)→ 2019年SR170億
- 失業率:2016年第2四半期11.6% →(悪化)→ 2020年第2四半期15.4%
ビジョン2030はサウジアラビアのイスラム教国としての在り方をより強固にするものであり、
これによりイスラム教国であることに誇りを感じる多くの国民の支持を得ています。
また、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は2021年にビジョン2030の5周年記念のテレビに出演し、計画の順調性に触れました。
これを受け、国民は同計画が軌道に乗っていることに自信を深めたとみられます。
さらに、経済、健康、教育、インフラストラクチャ、レクリエーション、観光などの公共サービス部門開発によって国民の生活水準向上につながると考えられ、歓迎されている様子がうかがえます。